2012年2月26日日曜日

体力がないと物事を決められなくなる? -疲労と決断ー

イスラエル・ベングリオン大学のShai Danzigerらの報告。

「人間、疲れてくると物事の決め方がいいかげんになる。
ぶっちゃけ、7割OK出してたような決定も、昼飯前にはゼロになるよ-」ってお話。

まあ、ありそうな話ではあるんだけど、刑務所の仮釈放申請なんてけっこう深刻な場所で、かなりはっきり差のある結果が出ちゃったんだよなー。


Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 April 26; 108(17): 6889?6892.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3084045/?tool=pubmed

Extraneous factors in judicial decisions
Shai Danziger,a1 Jonathan Levav,b1,2 and Liora Avnaim-Pessoa




Danzigerらは刑務所での仮釈放放審査委員会での審査(1112回)についてのデータを10ヶ月間分調査し、経過時間と判断についての関連を調べた。
その結果が以下のグラフである。



縦軸が判事が仮釈放を認めた割合、横軸が時間で、点線はオヤツや昼食休憩のタイミングを示す。

グラフを見るに、仕事がはじまったあたりではだいたい65%くらい認められていた仮釈放がだんだん低下していき、昼食休憩前にはほとんどゼロになっている。

休憩後、再び60%程度にまで戻った仮釈放の許可は、時間とともに再び低下し、オヤツを食べたあと一瞬だけ60%に回復した後、再び10%あたりまで低下。
そして、帰宅直前の時間に仮釈放が認められた例はゼロである。

この結果からは、『仮釈放を認める割合』が時間とともに低下すること、そしてその『割合』は休憩で回復するが、”回復”の持続時間が時間経過とともに短縮されていくこと、昼食前や帰宅前などの「仕事が終わるタイミング」ではネガティブな決定しか行われなかったことが読み取れる。

脳の機能が仕事が続けば低下していくということは、たとえば計算力や記憶力なんかでは誰もが体験的に知っている。
しかし、今回の研究から見るに、”仮釈放”のように倫理的・道徳的な判断においては、計算能力などよりもはるかに大きな影響を受けているということは、あまり知られていないのではないだろうか。

実はこうした傾向については他の研究でも同様の結果が得られており、「脳は疲れてくると”現状を維持する”選択をしたがる」ということが言われているらしい。
確かに、現状を変更する選択は、脳や身体にさらなるエネルギーを使わせるものであり、予期せぬ危険を呼ぶこともあり得るわけで、生物としては妥当な選択なのかも知れない。

そう考えると、多面的な、そしてアナログな問題であればあるほど、脳の疲れによって肯定される可能性が下がってくると言うのは十分にあり得ることだといえる。
倫理・道徳のような多面的かつ複雑な問題=チェックポイントが多い問題ほど「現状を変える」ポイントが多くなる可能性が高まるからだ。
そして、今回の結果では、判事たちは疲労が蓄積するとともに「現状を変えない選択」、つまり「仮釈放を許可しない」方に思考がどんどん傾いていったと考えることができる。


確かに、こういうのってあるよね。
疲れたときに新しい話を持ち込まれても、何となくめんどくさくて「うーん、今回はいいや」とか言っちゃったり。
「お客に謝りに行くときや相談を持ちかけるときには、昼飯直後の機嫌のいい時間に」なんて職場の先輩に言われたことのある人もいるんじゃないだろうか?
私たちは意外と無自覚に、こういう”妥当ではない”、というか”ラクな方”に偏った決断をたくさんしちゃってるものなのかも。

ちょっと恐ろしいのは、こういう決断の差が、実は「65% vs 0%」みたいな大きな差であるにもかかわらず、いままで誰にも知られていなかった(少なくとも、自覚されているものではなかった)という点だ。

”決断”というのは、日常生活のなかでしょっちゅうするし、されてもいる。
たとえば、年度末の業務査定のとき、朝一番の社員と昼休み直前の社員とで、これだけの差が出るのだとしたら? 
君の出した稟議書が、審議にかけられた時間によって採用/不採用が決まっていたのだとしたら? 
そして君が、出入りの業者が持ってきたまったく新しい、世界にも類を見ない提案を昼休み直前に聞いてしまったがためにボツにして、同業他社に持っていかれてしまうようなことだってあるかもしれない。


ともあれ。
本研究から導かれる教訓は二つ。

・決断の必要な仕事は疲れてないときに。自分でやるときも、他人にしてもらうときも。
・大事な決断は朝一番か、少なくとも休憩のあとに行おう。

よく言う「仕事のできる人=スタミナのある人」ってのも、実はこういうことが関係してるのかもね。
疲れにくい体や頭を作ることで、新しいアイデアを実行に移す機会が増えてるのかも。
ジョギングなんかの運動で体を使うことで「仕事ができるようになる」って現象には、走ることで脳が活性化するって以外にも、こういったことが関わっているのかも知れないね。
というステマ。

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