2011年10月13日木曜日

鼻の細胞で糖尿病が治る?

またも産総研の浅島先生のグループの研究。Wnt3つながりで。

嗅球(脳の一部で嗅覚を司る)と海馬の神経細胞を使って糖尿病が治せる。かもってお話。



Insulin biosynthesis in neuronal progenitors derived from adult hippocampus and the olfactory bulb


http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/emmm.201100177/abstract



もともと嗅球や海馬の細胞はWnt3刺激に応答してインシュリンを作ってることが知られていた。

インシュリンってのは細胞にブドウ糖を取り込ませるシグナルになってるホルモンの一種で、主にすい臓で作られてる。
すい臓が壊れたりしてインシュリンがなくなると、血液中の糖が吸収されななくなって血糖値がやたら高くなり、尿にまで糖があふれ出すようになる(糖尿病)ほか、糖が取り込めなくなった細胞は栄養失調で最終的には死んでしまう。
糖尿病がひどくなるといくら栄養取っててもやせ細って死んでしまうってのはこのせいなんだな。


んで、今回の研究は糖尿病モデルラットを使って行われた。
の結果、Wnt3はIGFBP-4という物質をバランスを取っており、このバランスが崩れることでインシュリンが作れなくなること、そして、糖尿病になるとこの2つの物質のバランスが崩れてしまうことを明らかにした。

加えて、研究グループは、糖尿病の動物の嗅球から神経幹細胞(神経の”もと”になる細胞。神経の細胞は幹細胞が増殖・分化してできる)を取り出し、すい臓に移植してみた。

すい臓というのはご存じの通り、インシュリンを作っている場所だ。インシュリンはすい臓のなかにある「ランゲルハンス島」というところで作られているが、重症の糖尿病になるとこのランゲルハンス島が疲弊して死んでしまい、インシュリンが作れなくなる。

そして、ランゲルハンス島のなくなったすい臓に神経幹細胞を導入したところ、インシュリン生産能が回復し、血糖値が下がったという。

神経細胞はすい臓の中に点在し、ちゃんとランゲルハンス島の代わりを果たしたことがわかった。
この結果を基に研究者らは『特に遺伝子の改変を行わなくても、他の組織から幹細胞をとりだし、単に移植してやることで、望む組織の機能を発揮させることができると言う例を示した』とコメントしている。

つまり、いま世界中で研究されているiPS細胞みたいな面倒な手法を使わなくても、幹細胞さえ取れれば臓器の機能を回復できる可能性があるよ、ってことだね。


実はコレ、けっこう重要なポイントなんだ。
というのも、遺伝子改変細胞ってのは、常にガン化のリスクが問題視されているからだ。

実は、一部の悪性化したガン細胞ってのは、「幼若化」といって幹細胞にちかい、あるいは幹細胞そのものの機能を一部に持ってたりする。
なので、増殖する能力を失ってた体細胞が、遺伝子改変により分化能や増殖能を取り戻したiPS細胞ってのは、ガン細胞を体に戻すようなものだとか、ちょっとしたきっかけでガンになるのでは、という懸念があるんだね。

ところが、今回の研究はなんら遺伝子改変を行うことなく、単に幹細胞(が一杯入っているはずの組織)を植え込んだだけで、すでに糖尿病になっているラットがインシュリンを作る能力を回復させることに成功したんだな。

この研究が進むと、「だったらiPS細胞とかいらなくね?」となるのかも知れない。

とはいえ、幹細胞って組織内にはごくわずかしか存在してないし、より分けて取り出すのも簡単ではないものだから、iPS細胞みたく普通の組織から大量に幹細胞が取れる手法ってのは便利だと思うんだけどね。

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