2011年10月23日日曜日

イレッサの副作用が胃薬で防げる?

一時期超期待されてたけど、フタを開けてみたら副作用は多いは効かないわで非常にアレな感じのあるイレッサの、致死的な副作用である間質性肺炎が胃薬であるセルベックスで予防できたってお話。

http://www.nikkei.com/news/latest/article/g=96958A9C93819695E0E2E2E0858DE0E2E3E2E0E2E3E39180EAE2E2E2


そもそもイレッサってのは、2002年に承認された肺ガン用の抗がん剤だ。
発売された当初は、いわゆる「分子標的薬」の抗がん剤第一号ってことでものすごく期待されていた。

イレッサ(一般名ゲフィニチブ)は、EGF(上皮成長因子)という物質による細胞内シグナルを邪魔する化学物質だ。
EGFはその上皮成長因子という名のとおり、上皮細胞を増殖させる効果を持った物質で、傷ができたりすると分泌され、上皮細胞を増殖して傷を治すなんて作用を持ってる。

そんで、EGFはEGFR(上皮成長因子レセプター)というものを持っている細胞に作用する。
このEGFRはいろんなガン細胞が表面にたくさん持ってたりする。

ガンといえば異常な増殖能力というイメージがあるけど、一部のガン細胞はこうやって細胞の増えるスイッチをたくさん持ってるために、ものすごく増殖しやすいのだ。

そしてイレッサは、このEGFRが細胞内に増殖のシグナルを送るのを邪魔する物質だ。
EGFRはEGFとくっつくと、細胞内にチロシンという物質を使って細胞の増殖命令を出すんだが、イレッサはこのチロシンの作用を邪魔することで、EGFRの働きを妨げる。

実験室レベルでは正常細胞のEGFRも阻害していたけど、成人(特に高齢者)にとってはEGFRが発現してる細胞ってのはそう多くない。だから、副作用が少なくて済む可能性がある。
さらに動物実験や臨床試験では、イレッサはガンに発現している異常なEGFRに強く作用するという効果も示されたから、ものすごく期待された。
なんとなれば、イレッサは正常細胞にはほとんど効果を現さず、ガン細胞だけに作用する可能性が大きかったからだ。つまり、イレッサは「よく効いて副作用が少ない」という夢のような薬だと考えられていたわけだ。

こんなことが盛んに学会で発表されたおかげで、異例のスピードで承認されたイレッサは、日本中の肺ガン患者に投与されることになる。

そして、悲劇が起きた。

ようするに、イレッサは期待するほど効かなかった。

そればかりか、起らないはずの副作用がさまざまに現れ、特に重症化すると死ぬことも少なくない”間質性肺炎”が6%の患者に現れるとことがわかった。

現在では遺伝子診断で効く患者がある程度見分けられるようになったり、効くタイプの患者がわかる(特に東洋系に効きがよいのではないかと考えられている)ようになってきたりしている一方で、従来薬より効果があるわけではないという調査が報告されるなど、フタを開けてみたら非常にパッとしない。
しまいには使用した患者から訴えられる始末。
やれやれ。



で、今日ご紹介したニュースはこの間質性肺炎が、本来全然関係のないはずの胃薬で防げますよというお話。

実は、イレッサで間質性肺炎が起きる原因というのは未だにはっきりしていない。
ただ、イレッサが肺細胞が作るHSP70というタンパクを減少させることに着目した慶応義塾大学の水島教授らは、HSP70を増やすことがわかってるセルベックス(風邪薬で胃が荒れる人がよく処方される、安ーい胃薬。飲んだことのある人も多いはずだ)をイレッサと併用することで、間質性肺炎の発症を抑えることに成功した。
とはいえ、まだマウスでの実験に成功したってレベルなので、実際にヒトで同じ効果が現れるかは未知数だ(まあ、機序からいって効くとは思うけど)。


ただなあ。
結局のところ、イレッサ最大の問題はあんだけ”次世代の薬だ”だの”超効く”だのって煽っておきながら「あんま効きませんでしたテヘ」ってところであって。
間質性肺炎が出なくなることは、そら発症するよりは全然マシだけど、重要なところじゃないような気もするんだけどなあ。
厚労省からは「積極的に選択する根拠はないと考えられる」って判定されちゃった薬だし。
とはいえ、他の抗がん剤が一切効かない肺ガンでも効く可能性が残されてるから一概にいらないとも言えないあたりがまたやっかいなんだけれども。


それはそうと、セルベックスってHSP70増産効果なんてあったのね。
知らなかった。
なんか他のことに使えないかしら。

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