2011年11月8日火曜日

近赤外線でガンを撃つ!

NEJMより、新しいガンの治療法のお話。
近赤外線でガンを攻撃する、新しい(でもないけど)方法の動物実験が成功した、って話だ。


Shedding Light on Immunotherapy for Cancer

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcibr045001


抗体を使ってガンを攻撃しようって方法は、かなり昔から考えられてきた。

あ、抗体ってのは動物が持ってる異物への攻撃機構の一つで、すごくシンプルに言えば「自分の体の中にない物質にくっついて、そのタンパクを働けなくしたり、白血球に食わせたり」って仕事を受け持っている。
特異性が高い(特定の物質を選んでくっつく能力が高い)とか結合力が強いことがわかってて、たとえばガン特有のタンパク質に対する抗体に色素をつけてガンを染色すると、すごくキレイにガン細胞だけが染め抜かれたりってことがわかっていた。
なので、抗体に抗ガン剤をくっつけて直接攻撃させよう、とか、抗体が白血球に食われやすいように改変してガンを白血球に食わせようとか、いろんな方法が試されてる。

で、今回。
米国立衛生研究所の小林久隆研究員のチームは、抗体に「近赤外線を当てると発熱する物質」を付けて、ガンを攻撃させることを思いついた。
ガンてのは、熱に弱いことが多い。なので、抗体のように選択性の高いものでターゲッティングして、そこに熱を加えてやればガンが死んだり活動を停止する可能性がある。

実際、ガンめがけてマイクロ波(電子レンジで冷やご飯を温めてるアレだ)を当てるとか、電極突っ込んで暖めたりといった治療法が試されてたこともある。
上手くいったかって? 君の知り合いでこの手のガン治療受けてる人を見たことある? つまりはそういうことさ。関係ない部分が焼けることも少なくなかったしね。

さておき、小林さんたちはガンを暖める熱源として近赤外線を選んだ。
この近赤外線はなにげに身近に使われてるもので、たとえばテレビのリモコンだとか携帯の「赤外線通信」なんかにも使われている。
また、整形外科なんかで患部を暖めるときに使うランプにはこの近赤外線を当ててるものがある。

で、ここでは抗体に特定波長の近赤外線で発熱する化学物質を付け、ガン細胞を植え付けたマウスに投与し、近赤外線を毎日15~30分照射した。
この「特定波長」ってのがポイントで、この波長だと人体への影響はほとんどない。つまり、治療のために長時間照射しても、体には影響はない波長だと言える。

そして、対象区(比較のための実験)として、近赤外線だけを当てたもの、化学物質付き抗体を投与したもの、何もしないものを用意した。

結果、計8回の照射で、がん細胞は細胞膜を破壊され、実験に用いた10匹中8匹でがんが消失、ガンの再発もなかった。一方、化学物質付き抗体と照射のどちらかだけ、あるいは何もしなかったマウスはすべて3週間以内に死んでしまった。
ついでに言えば、研究グループは、他の種類のガンを植え付けたマウスでも同様の実験を行って、効果があることを確認している。
つまり、彼らの抗体+近赤外線療法が効果を現したということだ。


残念ながら、この研究はまだマウスでの効果が確認されたに過ぎない。
体の小さいマウスのガンは当然小さく、しかも人間とまったく同じに免疫系が働いているわけでもない。
とはいえ、免役システムの概要はほぼ同じだし、近赤外線は体表から5~10cmくらいは浸透して熱を伝えることができることがわかっている。
なにより抗体のくっついていない箇所(つまりガンではない部分)への影響も小さいことがわかっていることから、臨床応用への期待は大きい。

チームの小林久隆主任研究員は「抗体は、肺、乳、前立腺、大腸、卵巣、白血病、悪性リンパ腫などさまざまながんに使えるものが承認されており、数年以内に臨床応用を実現させたい。がん細胞が血中を移動する転移がんでも、それに結びつく抗体が見つかれば応用できる」と話す。』
だそうで。
実際、これまでにわかっている/作られている抗体に化学物質付けてやるだけでガン治療に使えるようになるなら、すぐにでも使える抗体は山ほどある。
つまり、一気にガン治療の幅が広がる可能性もあるということだ。

うまくいくといいねえ。

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