2011年11月27日日曜日

ガンが見える時代-スプレーでガンを可視化-

東大の浦野泰照教授とNIHの小林久隆主任研究員のグループが、スプレーするだけでがん部位だけを見えるようにする試薬の開発に成功した。
1分くらいで発色し、こんな感じに見えるということでScience Translational Medicineの表紙を飾った。


写真はマウスの腸間膜。緑に光ってるのが腸間膜に転移した卵巣ガンの固まり。
Science Translational Medicine 11/23に掲載された。
http://stm.sciencemag.org/content/3/110/110ra119




これまでも、たとえば胃カメラで食道や胃を見るときに、粘膜に色素を吹き付けて表面の状態をはっきり見えるようにすることでガンを見つけたりする方法は使われていた。
これは、ガンは普通の細胞と並び方が違ったり、細胞密度が高かったりするため見つけやすくなるというものだ。

また、ガン組織を外科的に切り出して薄い切片に切り出してから、ガンに特異的なタンパクの抗体に蛍光物質かなんかを付けてガンのある場所だけ染色する、いわゆる蛍光免疫染色法なんて方法も広く使われているけど、これはガンかどうかを確定させたいときや、ガンの正体を知りたいときに使う、いわば確定診断用のもので、使うには技術と時間が必要になる。

今回開発された試薬は粘膜染色みたいな見かけだけのものではなく、また免疫染色みたいに手間がかかるものでもない。組織に試薬をスプレーして、1分くらい置くだけでちゃんとガンを検出するという。

報告によれば、この試薬はγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)という酵素で分解されることで緑色の蛍光を発する化学物質なんだそうだ。
GGTはグルタチオンを作り出す、細胞表面に存在している酵素の一種で、正常細胞にも存在しているものだ。グルタチオンは抗酸化物質だったり、毒性物質を攻撃する性質を持ってたりするので、日本では処方せんの必要な薬として、海外では美容・健康サプリメントとして売られたりしてるほどの物質だが、肺がん、肝臓がん、乳がん、脳腫瘍、卵巣がん、子宮頸がんなどといった、多くのガンで活性が上昇していることがわかっている。

この試薬は,この酵素があるところに入り込んで、緑色に蛍光を放つ。
つまり、GGTの活発に働いているガン細胞に入り込むことで、先に挙げた写真のようにガンの組織だけが緑色に光るようになる、というシロモノだ。

現在、ガンを発症するマウスを使った試験をやった結果、試薬をスプレーしてからだいたい1分くらいでガンと正常組織が見分けられるくらいの発色が認められ、1mm以下の大きさのガンでもはっきり見えるくらい高い感度を持っていることが明らかになっている。

下の写真は試験のときのもの。
ガンを転移したマウスのおなかのなかに試薬を入れた1分後の写真だ。
なるほど、かなりはっきり光ってるのがわかるねえ。

これまで、内視鏡を含めたガンの外科手術で問題になるのは「とりそこない」というやつで、せっかく手術をしてもガンを見つけられずに取り損なったりすると、数ヶ月でガンが増殖して元の木阿弥、なんてことも少なくない。
しかも、ガンてのはもともと体にあったものが変わったもんだもんで、肉眼で見つけるのは難しいことも少なくない。脂肪組織とかリンパ節みたいにごみごみしてる性で潜り込んだガン細胞に気づかないなんてことだって珍しくない(実際、乳がんでリンパ節に転移があるかないかを調べるのは現在でも至難の業なのだ)。

そんな現状で、「試薬をかけるだけでガンが見えるようになる」試薬てのは医療側にも患者側にも利益が大きい。
もちろんGGTを発現してないガンもあるので全部のガンをみつけられるってわけじゃないし、まだマウスでの試験が終わってこれから人体への安全性なんかを確かめたりする必要があるんだけど、試薬自体は安価だし、蛍光を発色させる装置なんかも安い上に簡易なものなので、認可が下りたら一気に世界中に広まる可能性もある。

今話題のオリンパスあたりの内視鏡にスプレー装置と蛍光装置を上手いこと組み合わせたりするってぇと、けっこういい機械ができそうな気もするんだけどねぇ。

0 件のコメント:

コメントを投稿