2011年9月21日水曜日

サメのエキスでウイルス撃退


サメはウイルスに感染しないとか、他の魚がかかる感染症にかからないことが知られており、体内に独自の免疫機構か、あるいは抗菌物質を持っているのでは、と言われていた。

そんななかで1993年、ジョージタウン大学のザスロフは、ツノザメから「スクアラミン」という、コレステロールと類似した物質を抽出することに成功した。
この物質は癌や目の病気に効果があるらしいことがわかっており、現在すでに数百人規模の臨床試験に供されている。

スクアラミンが注目されているのは、その機能がこれまで知られている抗ウイルス物質はおろか、既知のあらゆる化学物質と異なる点にある。

そして今回、このスクアラミンがヒトに感染するデング出血熱ウイルスやB型・D型肝炎ウイルスの感染を阻止する能力があるようだ、という報告がなされた。
http://www.pnas.org/content/early/2011/09/13/1108558108.full.pdf+html


従来の抗ウイルス薬の多くは、ウイルスの作る特定のタンパクやRNAの構造に作用し、その増殖を抑える効果を発揮する。
よって、抗ウイルス薬は1種の薬品が1種のウイルスにしか対応しない場合が多い。
また、ご存じのようにウイルスは突然変異を起こす頻度が高く、「特定のタンパク」の構造が変わったりすることで開発された抗ウイルス薬が無効化される場合も少なくない。

スクアラミンはこうした抗ウイルス薬とは異なり、ウイルスの感染標的となる細胞に作用する。
スクアラミン分子は正の電気を帯びており、細胞に入り込むと負の電気を帯びている細胞膜と引き合って張り付く性質を持っている。
さらに、このときスクアラミンは細胞膜の内側にくっついている正の電荷を帯びたタンパク質を除けてしまう

ウイルスが細胞に入り込むためにはこれらの正の電荷を帯びたタンパクを足がかりとして必要とするため、スクアラミンを内部に含む細胞にはウイルスが入り込むことができない。
つまり、スクアラミンが体内にあれば、ウイルスは感染できないと考えられる、というわけだ。

このような性質がヒトの体でもちゃんと機能するのかどうかはこれまで明らかになっていなかったが、今回の報告では人間の血管細胞に住み着くデング出血熱ウイルスやB型・D型肝炎ウイルスの感染を防ぐ作用があることが見いだされた。

実は、スクアラミンが入り込むことができる細胞は血管や肝臓の細胞に限られている
よってスクアラミンの効果もこれらの組織にのみ限られているということになる。
今回の実験でもヒトでは血管や肝臓の培養細胞での実験結果が示されているだけだし、投与されたスクアラミンもかなり濃度が高いので、この結果をそのまま人体に応用できるかといえば難しいと言わざるを得ないだろう。

とはいえ、実際にスクアラミンの量に依存的にウイルスに感染する細胞数が減少しているほか、ハムスターやマウスでの感染実験でも黄熱病や東部ウマ脳炎ウイルス、ネズミサイトメガロウイルスなどの感染による死亡率をスクアラミンの量依存的に抑制していることが明らかになっていることなどから、新しい機序を持つ抗ウイルス薬として期待がもてると言えるだろう。

***

ただし、前述したように特定の細胞にしか効果がないこと、ハムスターなどに多量にスクアラミンを与えることで副作用が現れていることなどがちょっと気になるかなー。

あと、基本的に「ウイルスの感染を防ぐもの」なので、体内からウイルスがいなくなるまで投与を続ける必要があるのもちょっと気になるかな。
マウスでの体内半減期が12時間程度なので結構ひんぱんに投与する必要がありそうなんだよなー。
経口投与できるものならいいけど、分子の構造から考えるに食べたら消化されちゃうだろうし。
まあ、毎日注射し続けないといけない薬ってのは製薬メーカー的にはうれしい薬なんだろうけどw

とはいえ、スクアラミンの分子構造は明らかになってるし、研究が進めば他の細胞に入り込めるものや、半減期の長い分子を合成できるようになる可能性もある。
また、他の薬と組み合わせて使うことで「感染を防ぐ」+「ウイルスをたたく」という使い方もできるかも知れない。
なにより、化学合成できそうなあたりがいいよね。
大量合成できれば(そして副作用が少なければ)ウイルスが消えるまで毎日ばんばん突っ込むって治療法もとれるわけで。

肝炎とかの直りにくい感染症が、これでちょっとでも減るといいねー。

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