2011年9月20日火曜日

ゲーマーがHIV患者を救う?

科学者達が10年かかって解析できずにいたある酵素の構造解析を、ゲーマー達が3週間で成し遂げてしまったというお話。


この酵素はM-PMV retroviral proteaseと呼ばれるもので、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などのレトロウイルスの分子を切断する酵素であり、うまくすればレトロウイルス感染症の解決につながるかも知れない、というシロモノ。
しかし、酵素が発見され、DNA解析が終了し、アミノ酸構造がわかってから10年もの間、この酵素を臨床に応用することはできないままに終わっていた。




ご存じの通り、酵素はタンパクの一種であり、細胞内で作られたアミノ酸の鎖が折りたたまれたり結合したりしながら立体構造を作ることで機能する。
アミノ酸の配列は、DNAやRNAを解析することで精度高く知ることができるようになっている一方で、アミノ酸がどのような立体構造を取るかを予測することは非常に難しい。現在、さまざまな解析ソフトが開発されているものの、その精度は決して高いものとは言い難く、DNAやRNAの解析技術がかなりの高速化を果たしながら意外と成果を出せていない原因の一つはこのへんの解析がボトルネックになっている、という事情があったりする。

これには、コンピューターはいまだに空間推理能力に劣っているという点が関係していると考えた米ワシントン大の生化学の研究者グループは、その立体構造をゲーマーの直感と想像力にゆだねることを思いついた。
彼らはfolditというソフトを作成し、それをゲームとしてサイトにアップして、「パズルゲームをクリアさせる」というアプローチで立体構造を解析させたのだ。

Foldit トップページ


そして、このアプローチにより、プレイヤー達はわずか3週間で、正確な酵素の構造モデルを完成させてしまったのである。

この成果はNature Structural & Molecular Biology誌に報告された。
もちろん、”ゲームをクリアした”ゲーマー達の名前とともに
http://www.cs.washington.edu/homes/zoran/NSMBfoldit-2011.pdf


M-PMV retroviral proteaseのようなレトロウイルスを選択的に切断する酵素の構造が明らかとなれば、AIDSをはじめとするレトロウイルスによる感染症が治療できる分子標的薬の開発に繋げることができるかもしれない。
今回の成果は、この”夢”に大きな一歩を残したものと言えるだろう。


ソフトの開発者の代表者であるハティーブは「自動化で解けなかった問題を、人間の直感が解決できることが確かめられた。ゲームプレーヤーの創意工夫の能力は非常に高く、適切な指導があれば他の科学的問題の解決にも利用できるだろう」と述べている。

人間がコンピューターと勝負ができる分野はまだまだ残されているようで。

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